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仙台地方裁判所 昭和63年(ワ)975号 判決 1989年10月30日

原告

小林恒男

ほか一名

被告

跡邉潤

ほか一名

主文

一  被告跡邉潤及び同跡邉忠夫は各自原告小林恒男に対し四二六万〇六四八円及び原告高橋かねに対し二一三万〇三二四円並びに右各金員に対する昭和六三年六月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  第一項は仮執行をすることができる。

事実

第一申立

(原告ら)

一  被告らは原告小林恒男に対し各自九二九万一一八〇円及び原告高橋かねに対し各自四六四万五五九〇円並びに右各金員に対する昭和六三年六月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

(被告ら)

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  予備的に仮執行免脱の宣言

第二主張

(請求の原因)

一  本件事故の発生

1 日時 昭和六二年六月九日午後六時一〇分頃

2 場所 宮城県名取市高舘川上字蛭田二番地先市道(十字路)

3 加害車両 被告跡邉潤運転にかかる被告跡邉忠夫所有の普通乗用自動車

4 被害車両 訴外亡小林昭子運転の軽四輪貨物自動車

5 発生状況及び訴外昭子の死亡

被告潤は父親である被告忠夫所有の右車両を運転して、交通整理の行なわれていない前記十字路交差点(以下「本件交差点」という。)を東金剛寺方面から前沖方面に向い時速八〇キロメートルで進行するに当たり、右方道路から進行してくる訴外昭子運転の車両を右前方約八二メートルの地点に認めたのであるから、同車の動静を注視し、適宜減速し、同車との安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、警音器を吹鳴したのみで同車の動静を注視せず、前記速度で漫然進行した過失により、自車前部を訴外昭子運転の車両左側部に衝突させて同車を自車とともに左前方の水田に転落させ同女に肺破裂等の傷害を負わせ、よつて同女をして同傷害により同日午後六時五四分頃、岩沼市押分字志引五二番地の一南東北病院において、死亡するに至らせた。

二  昭子の相続関係

訴外昭子の死亡により相続が開始し、原告恒男は配偶者として三分の二、原告かねは親として三分の一の法定相続分に従い、訴外昭子の権利義務一切を承継した。

三  損害

1 逸失利益

訴外昭子は昭和一四年三月一七日に出生し、本件事故当時四八歳の主婦であつたので、同年齢の女子の平均年間給与額を「賃金センサス」昭和六一年第一巻第一表に従い二五〇万一九〇〇円とし、これにベースアツプ分としてその五パーセントを加算し、さらに生計費としてその三〇パーセントを右数値から控除し、労働可能年を六七歳として新ホフマン方式(一九年の係数一三・一一六)により計算すると、逸失利益は二四一一万八九六六円になる。

2 慰謝料

訴外昭子の小林家における支柱乃至はそれに準ずる地位からして二〇〇〇万円が相当である。

3 葬儀費用 一〇〇万円

但し、原告らが、各自相続分に応じて支出した。

4 過失相殺

以上により、損害の総額は四五一一万八九六六円であるが、前記本件事故の態様に照らし、被告潤の過失割合は八割であり、訴外昭子の過失割合は二割であるところ、過失相殺後の損害額は三六〇九万五一七二円である。

5 損害の填補(損益相殺)

自賠責保険から二三三五万八四〇〇円が支払われた。

6 弁護士費用

被告らは訴訟前の原告らの請求にもかかわらず、誠意ある対応をせず、このため原告らはやむなく弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の遂行を依頼したが、右弁護士費用は過失相殺後の損害額から損害の填補金を控除した額の約一割に相当する一二〇万円(相続分に応じ、原告恒男につき八〇万円、原告かねにつき四〇万円)である。

よつて、被告潤に対しては民法七〇九条の、忠夫に対しては自動車損害賠償保障法三条の損害賠償請求権に基づき、原告恒男は九二九万一一八〇円及び原告かねは四六四万五五九〇円並びに右各金員に対する本件事故の後である昭和六三年六月九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一  請求原因一はすべて認める。ただし、被告潤の過失が原告主張のように大であることは争う。跡邉車は小林車に対し、本件交差点の手前約五〇メートルの地点において警報を鳴らしたところ、小林車は一時減速するような動きを示したので、被告潤は小林車が警笛音を認識し当然本件交差点の手前で止まるものと考えそのまま進行したが、小林車は停止することなくそのまま本件交差点に侵入して本件交通事故が発生したのである。

二  請求原因二の相続の開始は認め、その割合は不知、同三の損害はすべて争う。なお、慰謝料については一五〇〇万円が妥当である。

(抗弁)

本件交差点は交通整理が行なわれておらず、しかも小林車走行道路の幅員はその交差道路である跡邉車走行道路のそれより狭く、また跡邉車は交差道路を左方から進行してきたのであるから、小林車は跡邉車を優先させるべき義務があつたのであり、昭子には本件交通事故発生につき少なくとも六〇パーセントの過失がある。

(抗弁に対する答弁)

本件交差点における交差道路の幅員に広狭の差があつたことは否認する。

道路交通法三六条一項一号(左方優先)の定めは認めるが、小林車が徐行しながらも先に交差点に侵入した以上、跡邉車はこれを避譲し、減速する等して小林車を先に通過させる義務があつた。仮に跡邉車が優先する場合でも、被告潤が小林車を発見した時点における本件交差点と跡邉車との距離が、本件交差点と小林車とのそれに比し相当長い本件の場合には、小林車が自車よりも先に交差点に侵入してくるかもしれないことを予測し、これに対応できる速度に減速して小林車のその後の動きに注目し、同車が交差点手前で確実に停止して入つて来ないことを確認しながら進行すべき注意義務があつたのであり、被告潤のかかる義務懈怠を考慮するとき、本件交通事故における訴外昭子の過失割合は二割とするのが相当である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因一の事実は被告潤の過失の程度を除き、当事者間に争いがない。請求原因二の昭子の相続関係は、成立に争いのない甲第一号証の一、二によつてこれを認めることができる。

二  そこで以下損害について判断する。

1  訴外昭子の死亡による逸失利益について

前記甲第一号証の一及び原告恒男の本人尋問の結果によると、訴外昭子は昭和一四年三月一七日に出生し、本件交通事故当時は四八歳であつたこと、事故当時は家庭の主婦として家事労働に従事していたほか、田一反六畝、畑一反の農作業にも従事していたことが認められ、以上の事実によれば、昭子は本件交通事故により死亡しなければ六七歳になるまでの一九年間、家庭の主婦として家事労働に携わるとともに農作業にも従事することが可能で、右家事労働及び農作業における労働の金銭的価値は年額にして昭和六二年度賃金センサスと同程度の額であると評価するのが相当であるから、当裁判所に顕著な「賃金センサス」昭和六二年第一巻第一表、全国性別・学歴別・年齢階級別平均給与額表中の該当金額(二六二万三〇〇〇円)を採用し、これから生活費として右金額の四割を控除し、さらに年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式(一九年の係数一三・一一六)により、訴外昭子の死亡による逸失利益の死亡時の現在価額を求めると、その額が二〇六四万一九六〇円になることは計数上明らかである。

2  慰謝料

証人高橋惣一の証言によつて成立の認められる甲第一六号証乃至第一八号証及び同証言並びに原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第一三号証乃至第一五号証及び同尋問結果によると、訴外昭子は小林の家庭においては一家の支柱に準ぜられる地位にあつたものと認めることができ、右の事情と原告らが本件において慰謝料として昭子自身の被つた精神的苦痛のみを請求している事情に照らすと、その慰謝料は、二〇〇〇万円とするのが相当である。

3  葬儀費用

弁論の全趣旨から成立の認められる甲第二二号証、第二四号証乃至第二六号証及び原告小林恒男本人尋問の結果によれば葬儀費、葬儀冥加料等葬儀費用として一三五万四四五五円を支出したことが認められるが、明子の年齢、社会的地位その他本件記録に表われた一切の事情を考慮すれば、このうち一〇〇万円をもつて、本件交通事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

三  過失相殺

成立に争いのない甲第四号証乃至第一一号証及び被告潤の本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

即ち、本件自動車事故現場は宮城県名取市高舘川上字蛭田二番地先の東西に走る市道赤坂元中田二号線と南北に走る市道東内舘野田山線が交差する交通整理の行なわれていない四方が水田に囲まれた見通しのよい十字路交差点であつたこと、市道赤坂元中田二号線は幅員四・〇メートルの歩車道の区別のない直線のアスフアルト舗装された平坦な道路で、本件事故当時は湿潤状態であり、他方市道東内舘野田山線は交差点南側が幅員三・四メートル、北側が七・七メートルの歩車道の区別のない直線道路で、非舗装の凹凸のある砂利道で本件事故当時は湿潤状態であり、両道路とも交通規制がなかつたこと、跡邉車は昭和六二年六月九日午後六時一〇分頃、市道赤坂元中田二号線(以下「跡邉車走行道路」という。)を東金剛寺方面から前沖方面に向かい時速約八〇キロメートルで走行し、事故当時は被告潤が同車を運転し太田敬が助手席に及川明徳が助手席側後部座席に同乗していたこと、他方小林車は同時刻頃、市道東内舘方面に向かい時速約四〇キロメートルで走行していたこと、被告潤は跡邉車走行道路を走行中、衝突地点西側手前約七六・七メートルの地点において右前方約八二メートルの地点(衝突地点南側手前約三〇・四メートルの地点)に小林車が同車走行道路を本件交差点に向かい走行しているのを発見したこと、その後、被告潤はそのまま進行すれば本件交差点において同車と衝突するかもしれないと判断し衝突地点西側手前約四三・二メートルの地点で警笛器を吹鳴し自車に軽度の制動をかけたこと(この時、小林車は衝突地点南側手前約一七・二メートルの地点を走行)、その後、小林車が跡邉車の警笛音により同車を認識し速度を落としたように見えたことから、被告潤は小林車が交差点手前で確実に停止するものと軽信し、再び自車を加速させ時速約八〇キロメートルで走行したところ、小林車が衝突地点南側手前約六・七メートルの地点に到達し、更に交差点内に侵入する様相を呈したため、同車との衝突の危険を感じ、衝突地点西側手前約一五・五メートルの地点で急制動の措置を取つたが間に合わず、本件交通事故が発生した。右認定事実によれば、昭子にも本件交差点に侵入するに際し、跡邉車の動静につき注意を払わなかつた過失があるといわなければならない。

しかし、跡邉車が小林車に対し左方車であつたことから(なお、跡邉車走行道路は小林車走行道路より明らかに広いとはいえない。)前者が後者に優先したとしても、被告潤が小林車の存在を認識した時点における両者の位置関係(跡邉車は衝突地点西側手前約七六・七メートルの地点、小林車は同地点南側手前約三〇・四メートルの地点。)においては、被告潤は交差道路を進行する小林車が交差点直前で確実に停止し自車を優先させるものと信頼することは許されず、自車を減速させた上小林車の動静に注意を払い、もつて交差点における衝突を回避すべき注意義務があつたにもかかわらず、交差点手前で警音器を吹鳴させ小林車の動静を一旦伺つた後は同車が交差点手前で確実に停止するものと軽信し時速約八〇キロメートルの速度で進行した著しい過失を認めることができる。

これらを総合して判断するとき、被告潤と昭子の過失割合は七対三と解するのが相当である。

そして前記二の1乃至3の損害額の合計は四一六四万一九六〇円であるから、これに右に認定した過失相殺割合を乗ずると二九一四万九三七二円となる。

四  損益相殺

成立に争いない甲第二九号証及び原告恒男の本人尋問の結果によれば原告らは自賠責保険から二三四三万七五八〇円の支払を受け、このうち逸失利益、葬儀費、慰謝料分の合計は二三三五万八四〇〇円であつたことが認められ過失相殺後の前記損害額から右金額を控除すると損害額は五七九万〇九七二円となる。

五  これを原告らの法定相続分に従い分割すると、原告恒男につき三八六万〇六四八円、原告かねにつき一九三万〇三二四円となる。

六  弁護士費用

原告らが、被告らから前記各損害賠償額の任意の支払を受けられないので、やむなく本訴の提起遂行を弁護士である本件原告ら訴訟代理人に委任したことは弁論の全趣旨によつて明らかであるところ、本件訴訟の進行経過、事件の難易、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件交通事故と相当因果関係にある損害として、原告らが支払を求めうる弁護士費用は、原告恒男につき四〇万円、同かねにつき二〇万円と認めるのが相当である。

七  よつて、被告跡邉潤、同跡邉忠夫は、各自、原告小林恒男に対し四二六万〇六四八円、原告高橋かねに対し二一三万〇三二四円及び右各金員に対する本件事故の後である昭和六三年六月九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの被告らに対する各請求は、右の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮村素之)

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